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東京高等裁判所 昭和33年(う)886号 判決

被告人 高橋信夫

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

原審および当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意第一点について。

よつて調査するに、原判決は、その挙示する証拠によつて被告人がラツキヨウ買付手付金或は買受代金名下に金員を騙取しようと企て、原判決がその事実摘示において引用している起訴状記載のように前後二回にわたつて江丸国夫を欺罔し、よつて同人から計十万円を交付させてこれを騙取した事実を認定している。しかしながらその挙示する証拠を仔細に検討すると、被告人の本件詐欺の被害者は、所論のように江丸国夫個人ではなくて同人が経営の衝に当つている法人(当審における事実取調の結果によると、それは江丸国夫が代表取締役をしている有限会社江丸屋商店であることが明らかである。)であることを窺知することができる。しからば原判決がその挙示する証拠によつて本件詐欺の被害者を江丸国夫個人であると認定したのは失当であつて、原判決はこの点において理由くいちがいの違法を犯しているものといわなければならない。もつとも所論はこの点につき原判決には事実誤認があると主張するのであるが、所論の内容は結局理由くいちがいを主張するものと解せられるのであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

被告人の控訴趣意について。

所論は、詐欺の犯意を否認するものであるが、原判決の挙示する証拠を総合すると、原判決には本件における実質的被害者の点において前段説示のような誤はあるが、被告人において原判決認定の如き詐欺の犯意をもつて江丸国夫を欺罔し、よつて同人の手から二回にわたつて計十万円を交付させてこれを騙取した事実はこれを認めることができるのであつて、原審記録を精査し当審における事実取調の結果に徴しても、原判決には被告人に前記金員騙取の意図があつた点について事実誤認の疑はない。それゆえこの点に関する論旨は理由がない。

しかしながら原判決には前に説明したように理由くいちがいの違法があるのであるから量刑不当の論旨についての判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項により原判決を破棄し同法第四百条但書により当審において変更を許可した訴因につき左のとおり自判する。

(罪となるべき事実)

被告人は、毎年ラツキヨウの生産時期にその仲買を業としているものであるが、金銭に窮した結果生ラツキヨウ買付手付金或は買受代金名下に金員を騙取しようと企て

一、昭和三十二年五月三十日頃千葉県東葛飾郡我孫子町布佐二千七百三十六番地有限会社江丸屋商店において同会社代表取締役江丸国夫に対し、真実白幡部落のラツキヨウ生産者に予め買付手付金を打つておく意思がないのにこれあるもののように装い、その手付金として金十万円を出されたき旨申入れ同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において同人の手を通じて前記会社から生ラツキヨウ買付手付金名下に金三万円を交付させてこれを騙取し

二、同年六月二十七日頃前記江丸国夫に対し真実買付けたラツキヨウを引渡す意思がないのにこれあるものの如く装い「白井新田に生ラツキヨウ八十俵位自分が手付金を打つて買い付けており、今その品物を俵につめているから明日中には間違いなく持つて行くからその代金として七万円出して貰いたい」旨申し向け同人をしてその旨誤信させ、よつて同日同人の手を通じて前記会社から生ラツキヨウ買付代金名下に金七万円を交付させてこれを騙取し

たものである。

(以下略)(略)

(裁判官 岩田誠 八田卯一郎 司波実)

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